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一ノ谷禎一インタビュー

「錺金具」という言葉は、一般の人は、あまり聞き慣れないかもしれない。だが、お寺の本堂やおみこしを飾る金色の装飾といえば、すぐに思い浮かぶだろう。その歴史は古く、日本最古の建築物である法隆寺金堂でも目にすることができる。一ノ谷禎一さんは、漆塗り職人である父のすすめで、この道に入った。神聖な寺社を飾るのは、厳しく孤独な仕事だというが、その人柄は、どこまでも明るく、親譲りの江戸っ子気質にあふれている。

――錺金具とは、どのようなものですか。
「錺金具は、お寺や神社といった社寺建築、おみこし、和だんすなどに使われる装飾用の金具全般を指します。これは私の推測ですが、錺金具は、くぎが進化して装飾になったようです。もともと日本では、くぎを使わずに建物を建てていました。それが鉄が手に入るようになって、建物を丈夫にするために、要所要所にくぎを打つようになった。そのうち、くぎを隠す金具が出てきて、そこに装飾を施すようになった。それが当たり前になり、錺金具になったのだと思います。余談ですが、おみこしは真ちゅうの地金を、寺社関係は銅の地金を使うことが多いですね」

――どんな金具を作っているのですか。
「職人によって得意分野が違います。私が得意なのは社寺建築。いまやっている仕事は、新宿の花園神社で使われていた錺金具を修復する仕事です。これは神社の扉につけられていた銅製の紋ですが、長い間、風雨にさられて、傷んでいました。これをメッキ屋さんに頼んできれいに洗ってもらい、ひびやゆがみをきれいに直しました。こうした修復の仕事以外に、仏具や神具を新しく作る仕事もやっています」



――この世界に入られたきっかけは。
「父は仏具の塗師でした。私は長男だったので、高校を卒業したら当然、跡を継ぐものだと思っていました。ところが、父から錺屋になれと突然、いわれた(笑)。塗師屋と錺屋というのは、商売仲間です。ある錺屋が「若い衆がいなくなったけど、誰かいいやつ知らねぇか」といっていたのを父が聞きつけた。父としては、よそで働くのもいい経験だと思い、私を錺屋に行かせたのかもしれません。あるいは、塗師屋は、将来がないと思っていたのかもしれません。いずれにしても、錺屋の仕事のほうに体がなじんでしまい、9年間、両国にいる親方のもとで修行した後、独立しました」

――修行はどのように。
「正式に弟子入りする前に、アルバイトとして親方のところに1週間、通いました。そうしたら高熱を出してしまった(笑)。錺屋というのは、ずっと座りっぱなしの仕事で、慣れないうちはそれが体に応えました。もちろん、最初は仕事らしい仕事はやらせてもらえません。地金のくずに好きなようにタガネを打つところから始まりました。慣れてきたら、唐草文様などの細い線をタガネで彫らせてもらえるようになりました。彫るのは昔からある古典柄ですが、職人によって線が微妙に違います。私のは親方から習った線だけど、やはり自分の癖が出ます。いい線を彫れるかどうか。ここが腕の見せ所です」


――ものすごいタガネの数です。
「ざっと800本くらいあります。それでも代々やっている人にはかないません。中には2000本、3000本くらい持っている職人もいます。錺金具は、タガネを使って形を切り抜き、文様を彫るわけですが、技法によって使う道具が変わってきます。代表的な彫りは、『地彫』『透彫』『毛彫』『肉彫』などです。『地彫』は、タガネを使って厚い地金を高く盛り上げ、文様を作り出す技法です。『透彫』は、金属板を切り透して文様を表現する技法で、切りタガネを打ち込んで、透し文様を表現する方法と、糸ノコで文様を切っていく方法があります。『毛彫』は、毛彫りタガネや丸毛彫りタガネなどを使って、唐草や獅子といった細い文様を彫り込んでいきます。『肉彫』は、金床ではなく松やになどの上に地板を置き、文様の周囲を掘り下げていく技法です。とにかく、技法や彫るものサイズによって、これだけのタガネが必要になってくるわけです」

――錺金具師は、全国的に減っています。
「東京で錺屋をやっているのは、8、9軒くらいでしょうか。そのうち4軒は、跡取りがいない75歳以上の職人なので、数が減っていくのは目に見えています。私は、3人の子どもがいます。一番下は男の子ですが、息子が跡を継ぐには、仕事に魅力がなければ無理でしょう。父の世代は、仕事はあるけど、実入りが少ない職人貧乏ということがありました。でも、仕事を安売りすると、子どもたちを大学に行かせることもできないし、跡を継がせることもできません。ぼくらの仕事は、建築の部品を作るパーツ屋のようなものです。宮大工や木彫師、箔押師といった仲間がいないと成り立ちません。幸いにいま、やる気ある同世代の若手と、大きな仕事ができるようになってきました。日本の伝統技術を残すためにも、横のつながりを生かして、職人の価値をもっと高めていきたいですね」

写真:岡村靖子 構成:菅村大全

一ノ谷 禎一(いちのたに・ていいち)/

昭和62年 高校卒業後、親方(小泉清二師)のもとで修行
平成6年 独立開業
平成10年 東京都優秀技能賞受賞
平成15年 江戸川区に移転
平成18年 江戸川伝統工芸保存会入会
平成20年 第25回江戸川伝統工芸展にて区議会議長賞受賞

東京都伝統工芸技術保存連合会江戸川地区会員
江戸川伝統工芸保存会庶務
代表作品
成田山東京別院深川不動尊
 増上寺圓光大師堂須弥壇
 赤坂山王日枝神社神殿
 芝大神宮神殿
 大田区神明大神宮
 杉並区日蓮宗立法寺客殿庫裡
 新宿花園神社社殿改修工事

鳳凰
一ノ谷禎一 代表作 鳳凰
神輿の屋根に乗っている鳳凰のミニチュアです。職人技を活かし、本物同様に作られています。
神輿飾り金具 ストラップ(巴)
神輿飾り金具
ストラップ(巴)
神輿飾り金具 ストラップ(巴)
神輿飾り金具 ストラップ(平鈴)
神輿飾り金具
ストラップ(平鈴)
神輿飾り金具 ストラップ(平鈴)
ペーパーナイフ鳳凰
ペーパーナイフ
鳳凰
ペーパーナイフ鳳凰
亀の置物(小)
亀の置物(小)
 
亀の置物(小)

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