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山富繁子インタビュー

水引とは、細い紙縒(こより)に水糊を引いて、乾かし固めた紐のこと。古くから贈り物や、日本髪の結び紐として重用されてきた水引を、結んだり立体的に編むことでさまざまな形を作り出したのが水引工芸である。現代では慶弔行事の「のし袋」や結納品としてお馴染みの水引工芸に、さらなる可能性はないものか――この道30余年の山冨繁子さんは、水引工芸に込められた日本人の伝統を、今の世代に伝えたいと奮闘している。

――(工房に飾られた作品を見て)水引でこんなに色々なものが表現できるとは、驚きました。
「花、お人形、干支、動物、兜におひな様…あらゆるものが水引で作れますよ。どの結び方でどんな形に表現するか、どんな色遣いをするかがセンスの見せどころです」

――僕は愛知県の岡崎市出身なので、水引は結納品で馴染みがあります。
「もともと水引は飛鳥時代、遣隋使の小野妹子が隋から持ち帰った贈り物に、紅白の麻紐がかけられていたことがルーツと言われています。高貴な人たちの間では贈り物には紅白の麻紐が掛けられ、明治になるとのし袋が生まれ、そして結納品に用いられるようになり、昭和になるともう少し一般的な贈り物にも使われていたようです。女学校では『贈り物のお菓子には水引をかけてお持ちなさい』と教えていたそうですよ。百貨店の伝統工芸展で実演をしていると、『懐かしいわ、お作法の時間に習ったのよ』とおっしゃる方がいます」

――山冨さんが作られているような、慶弔から離れた水引工芸細工はいつ頃から?
「戦後になって食べることが落ち着いて、家の中を綺麗に飾るゆとりが出来てからですね。額絵や置物として水引工芸細工が作られるようになりました」

――なぜこの道に入られたのでしょう。
「きっかけは母です。母が五十代の中頃、お友達の紹介で水引を学び始めたんですね。それが、福井県の伝統的な水引細工をルーツとする「中秀流」です。そのうちにご縁があって百貨店の伝統工芸展で実演をするようになりました。だんだん忙しくなってきて、あなたも手伝ってといわれて、母に習いながら中秀流の家元のところにも通い始めました。今から30年前、40歳を過ぎた頃です」



――それからのめりこまれた。
「はい。母がやっているときは簡単に見えたのに、じつに難しいんですね。仕上げたい形に合わせて、1本90㎝の水引を組み合わせて、結んで、編んで、巻き上げる。慣れないうちは左右対称にならなかったり、へんな膨らみが出ていました。百貨店で実演している母のもとへ作品を持って行くと、『枯れ木も山の賑わいね…』と言って、隅っこのほうに飾られて(笑)」

――ご自分で納得できるようになったのは?
「ああ、これならお客さんに出してもいいかなと自分で思えるようになったのは、50歳近くなった頃ですね」

――作るとき、これはお母様ゆずりだなと感じられる点はありますか?
「じつはわたしの実家は注文洋装店で、母は婦人服、父は紳士服のオーダーメイドを承っていました。両親ともに一枚の布を針で縫って、洋服に仕立て上げるまでを日々の仕事としていたわけですから、根気と器用さたるやそうとうなもの、頭が下がります。 残念ながらわたしは器用さの部分では両親にほど遠いですが、〈根気〉の遺伝子は受け継げたように思います。そのためか、水引を結ぶときも形の取り方や色の組合せを考えているときは、とっても気がのるんですね。センスがあるかどうかは皆さまのご判断ですが、実家の環境から受け継いだものは何かしら多いように思います」


――現代の暮らしに水引を取り入れるには、どんな方法があると思いますか?
「お正月飾りやのし袋のほか、贈り物にリボンを結ぶようにラッピングの飾りに使っていただきたいです。創意工夫の見せどころ、いろいろな飾り方が考えられます。水引は5本、あるいは7本を平らに並べて結んでいくので、慣れないうちは途中でばらけやすくて自在に結べるまでには修練が必要です。ただ、昨今は5本の水引をあらかじめ張り合わせた「張り水引」も販売されています。こちらは一本の紐のような形状ですから、比較的ラクに扱えます。 もともと「結ぶ」という行為には「魔を除ける」という意味があり、贈り物に水引を結ぶことは、先様への思いやりが込められているんですね。和物の贈り物をするときには、皆さんにもぜひ水引をかけていただきたいです」

――後継者はいらっしゃいますか?
「いないんです。この間、百貨店で実演をしていましたら、『これ何?』と尋ねた子どもにお母さんが『ビニールの紐のような物よ』と答えているのを聞いて、水引の名称すら忘れられているのか……と寂しい思いをしました。のし袋で目にするだけの存在ではなく、この素晴らしい日本の伝統文化を何とか少しでも多くの人に知っていただいて、できれば自分で結べるようになってほしいなと思います。母が6年前に87歳で亡くなってからは、より一層その気持ちが強くなっています」

写真:岡村靖子 構成:宮坂敦子

やまとみ・しげこ/

昭和16年 台東区浅草に生まれる。
昭和49年 (財)日本手工芸指導協会付属乎工芸学園総合手芸科卒業。 講師として勤める。
昭和55年 東京水引芸術学院「中秀流」正教授、鈴木京琴(ケイシュウ)に師事する。
各地の「伝統工芸江戸職人展」も鈴木京琴の助手として参加。
本格的に修行に入る。
平成12年 東京水引芸術学院正教授資格取得。
平成20年 (財)日本手工芸指導協会主催「美しい手工芸の世界 東京展」入選。
平成21年 江戸川区伝統工芸会正会員。
東京水引芸術学院中秀流山冨京心取得。


山富繁子 代表作 水引工芸・虎
山冨さんが動物を製作される際には、猛々しい種類のものであっても、出来上がった時に、優しさと可愛さが伝わることを心がけています。虎は、縦縞の位置と分量がポイントとなり、黄色の地肌とのバランスにも苦労されました。顔立ちも、目、鼻、髪の量にこだわっています。猫との違いを特に鼻の形にて表現されました。完成した作品にそれなりの重量感を感じられた際に満足感が溢れます。
熨斗袋
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