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高橋栄一インタビュー

元来、浴衣は入浴後に体の水分をふき取るものだった。それが町人のファッション着となったのは、江戸末期のこと。幕府の奢侈(しゃし)禁止令により、絹や色糸は使えない。ならば木綿の藍一色で、どれだけの粋なものを作れるか。町の旦那衆は、金に糸目をつけず、職人技を競わせた。高橋榮一さんの工房には、江戸から明治にかけて作られた浴衣の型紙が3万枚近く集められている。それを現代の染色技法で復刻。手に届きやすい価格帯で、江戸っ子の心意気をいまに伝えている。

――ものすごい数の型紙ですね。
「倒産した染め物工場や個人宅に眠っていたものを、父が若いころから少しずつ買い集めてきました。正確な数はわかりませんが、3万枚近くあると思います。時代は、江戸末期から明治にかけて作られたものが大半です。型紙作りは、伊勢が本場ですが、これだけの数の型紙は向こうにも残っていないらしく、伊勢の職人さんたちが見学に来たこともあります」

――古い型紙の魅力は。
「当時の型紙は、一流の絵師や彫師が本業の合間に作っていたようです。それだけに絵も素晴らしく、細部まで手が込んでいます。例えば、桜の絵ひとつとっても、いまの人は同じ形の桜を描きますが、昔の絵師は、ひとつひとつ形を描き分けている。しかも、模様が細かいため、いまの職人の手には負えません。仮にできたとしても一反何十万という値段になってしまいます。そこで、父がひとりで研究を重ね、10年ほど前に古典柄の浴衣を復刻することに成功しました」

――それを〝江戸浴衣〟と呼んでいる。
「そうです。現在、売られている浴衣は、価格の安いプリント柄のものか、注染(ちゅうせん)といって、型紙の上から染料を注ぎ、何枚もの生地を一度に染めたものが大半です。江戸浴衣は、古い型紙を写真製版で複製し、シルクスクリーンの上からヘラでのりを置いて、防染しています。注染よりも作業効率は悪くなりますが、こうすると、細かい柄が染料でつぶれず、両面から染めてあるように見えるので、浴衣のすそがめくれても、プリント柄のような白い裏地が見えません」


――毎年、売り上げが伸びているそうですね。
「うちで作る江戸浴衣は、1着5万円前後します。にも関わらず、今シーズンの江戸浴衣は、完売しました。プリント柄の倍以上する値段ですが、最近は若い人が買ってくれるようになりました。聞くと、花火大会のときに安いプリント柄の浴衣を着て行って、古典柄の浴衣を着た人とすれ違う。そのときの存在感に魅せられて、いい浴衣が欲しくなったという。その後、主人や母にもプレゼントしたいと、また注文をくださる人が多いですね」

――ひとつひとつの柄に、いわれがあるのも古典柄の魅力です。
「江戸浴衣は、粋な柄が多いので、男性にも人気があります。例えば、滝を登るコイは、出世をあらわしています。『世の流れに逆らってどんどん登って、これから龍になるんだよ』なんて連れの女性にいえば、会話の糸口になりますし、格好がよいものです(笑)」

――江戸浴衣以外は、どんなものを染めているのですか。
「染め物屋は、得意分野があるものですが、うちは、よろず染め物といって、何でも染めてきました。いまでも売り上げの半分は、踊り浴衣や名入れ浴衣、手ぬぐいなど、企業や団体からの注文です。私の代になってからは、小ロット、スピード納品に努めるようにしました。江戸浴衣は、大量生産できませんが、それでも在庫がなくなれば3週間、忙しいときでも4週間で納品するようにしています」


――営業はどのように。
「以前、有名な陶芸家の工房へ見学に行ったことがあります。その先生は、1年のうち、3か月だけ働いて、後は作品を販売し、工房を見学させて、のんびり過ごしておられました。これが私の理想の仕事スタイルです。だから、営業に行っても、数は売らなくていい、無理して買ってもらわなくていいと、はっきりいいます。不良在庫になると、勝手にセールされてしまいます。丹精込めて作ったものを安売りされるのは嫌ですし、何より江戸浴衣の価値が下がってしまいます」

――もっと価格を上げてもよいのでは。
「そうも思いますが、百貨店や専門店の人と話すと、やっぱり綿には綿の相場があるわけです。10万、20万円で売るには、絹を使わなくてはなりませんが、そうすると仕入れの費用がかさみ、商品を見込みで作れなくなります。もともと浴衣は庶民の普段着です。江戸の伝統を生かしながら、気軽に着られて、ちょっと背伸びすれば買える。そんな浴衣をこれからも作り続けていきたいと思います」

写真:岡村靖子 構成:菅村大全

たかはし・えいいち/

昭和22年 栃木県宇都宮市生まれ。
昭和44年 大学卒業後、父親が経営する(株)高常に入社。
平成16年 日本伝統的工芸品展に出品。
平成20年 第4回東京伝統的工芸品チャレンジ大賞・都知事賞受賞。
平成21年 第5回東京伝統的工芸品チャレンジ大賞・奨励賞受賞。
平成27年 東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞受賞。

染色業4代目
江戸時代、明治時代の型紙約3万枚保有

高橋栄一 代表作 江戸後期や明治初期の貴重な柄を使用した江戸浴衣
高橋栄一さんのお父さん(常兵衛さん)が長年収集してきた古代柄を現代に復活させた江戸浴衣です。数えきれない程の種類がありますが、多くは藍染めです。2011年5月から公開予定の映画「ルパンの奇巌城」(秋原正俊監督)の中で、女優の末永遥さんが着用しているものは花火柄で色彩豊富な珍しいものです。とても艶やかな柄、色調にて若い末永さんにとてもお似合いです。数多くの江戸浴衣の中からご自身で選択され見事に着こなしています。映画「ルパンの奇巌城」で是非、浴衣姿の末永遥さんにお会いして下さい。
>>映画 「ルパンの奇巌城」 オフィシャルサイト

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